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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(あ)309号 判決 1959年7月03日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人林百郎の上告趣意第一点について。

所論は、原判決が爆発物取締罰則を適用して被告人らを処罰したことは、憲法三一条、七三条六号但書に違反する旨主張する。ところで爆発物取締罰則は、なるほど所論の如く明治一七年太政官が勅旨を奉じ布告第三二号として制定したものであって、議会の関与により、成立したものではないが、右罰則は明治二二年に旧憲法が制定されたとき、その第七六条第一項により「憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令」であって「遵由ノ効力ヲ有ス」るものと認められ、現行刑法(明治四〇年法律第四五号)が明治四一年一〇月一日から施行されるに当り同法施行法(明治四一年法律第二九号)第二二条第二項において「爆発物取締罰則第一〇条ハ之ヲ廃止ス」と規定されたのみで同罰則のその他の条項についてはこれを廃止若しくはその効力を否認するための何らの立法措置も講ぜられず、却って右明治四一年法律第二九号及びその後の大正七年法律第三四号という帝国議会の協賛を経た旧憲法上の法律の形式をもって改正手続が行われ、すなわち旧憲法の施行と共に旧憲法上の法律と同様の効力を有するものとして取扱われ、明治四一年に至って形式上においても旧憲法上の法律と同一の効力を有することとなり、しかしてその後現行憲法施行後の今日に至るまで、右罰則が他の法令により廃止され若くはその効力を否認するため何らかの立法措置の講ぜられた事実は更にないのであるから、右罰則は法規としての効力を失ったものではなく、憲法施行後の今日なお法律としての効力を保有しているものといわなければならない。このことは明治一三年太政官布告第三六号により制定された旧刑法第二篇第四章第九節第二三四条のいわゆる公選投票賄賂罪の規定の効力を是認した当庁昭和二四年四月六日大法廷判決(刑集三巻四号四五六頁)の趣旨に徴し十分に肯首することができる。されば所論は採用することができない。

次に所論は、原判決には憲法一一条、一二条、一三条の違反があると主張する。しかし原判決は本件に対し前記罰則第三条を適用して被告人らを処断しているのであって、所論が違憲を主張する同罰則六条、七条、八条を適用して処断しているのではないから、所論違憲の主張は前提を欠き採るを得ない。

同第二点について。

所論は判例違反を主張するけれども、実質は、被告人らは本件爆発物の隠匿所持につき原判示気賀沢勤及び花岡照夫と共謀した事実がないという単なる事実誤認の主張に帰し、引用の諸判例はいずれも強盗罪又は窃盗罪につき、数人共謀の上これらの罪を犯した場合には、共謀者中実行行為を全然分担しない者もなおこれらの罪の共同正犯としての罪責を免れることはできない旨を判示したものであって、所論の点には適切を欠き、判例違反の主張としては適法でない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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